「お前が入って阪神を強くしたらええやないか」桧山進次郎の決断を後押しした父の一言。掛布雅之の背番号「31」を巡る秘話も【ドラフト回顧録】
10月22日に開催される2026年のプロ野球ドラフト会議。球団からの指名はプロ野球選手への第一歩となるが、必ずしも入団を即決できるとは限らない。1991年、阪神タイガースからドラフト4位指名を受けた桧山進次郎も、複雑な思いを抱えていた。指名順位への不満に加え、長く低迷していたチーム事情も気に掛かっていたのだ。そんな桧山の背中を押したのは、父親からの思いがけない言葉だった。田崎健太氏の著書『ドラヨン』から桧山の野球人生をたどる全5回の抜粋連載。第2回は、阪神入団を決断するまでの葛藤と、掛布雅之の背番号「31」を巡る秘話に迫る。
第1回は こちら から
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「親にも上位(指名)じゃないと行かへんとはっきり言ってました。親は親で、うちの息子は東都で頑張っているから三位ぐらいまでには入るやろって思っていたんです。電話して〝四位に掛かったわ〞って言うたら、〝ああ、そうか〞みたいな」
三位以内に指名されなかったことで心が揺れたのだろう、この日の記憶は曖昧である。ただ、タイガースの担当スカウトだった今成泰章が寮に挨拶に来たことは覚えている。
「監督は今成さんと仲が良かったんです。電話ごしに〝明日ぐらいに挨拶行きたいんですけれど時間ありますか〞と今成さんが話しているのが聞こえてきた。そうしたら監督は〝馬鹿野郎、桧山怒ってんだ、今すぐ来い〞って言ってくれた。後から考えれば、今成さんの家は東武沿線で、帰り道だったんでしょうけど」
東武東上線の鶴ヶ島駅に近い東洋大学野球部の寮に今成が着いたのは、その日の夜のことだった。
「行くとか行かないとかいう話はしていないと思います」
桧山の心に引っかかっていたのは、四位という指名順位に加えてタイガースが長らく低迷していたことだった。
タイガースは八五年のリーグ優勝の後、翌八六年こそ三位に留まったが、その後は八七年から九一年までの五シーズンのうち、最下位が四度、五位が一度。文字通り、セ・リーグの底辺に貼り付いていた。
そんな桧山の背中を押したのは父親だった。煮え切らない桧山にこう言ったのだ。
「同じ関西に帰って来るのならば、社会人よりも(プロの)阪神の方がええ。お前、小さい頃から阪神ファンで育ってきたんやろ。最下位ばっかりっていうのは逆にチャンスがあるっていうことや。小さい頃、阪神に入ることを夢見ていたわけやろ。お前が入って阪神を強くしたらええやないか」
自分がタイガースを強くしたらいいという言葉に桧山ははっとしたという。
「冷静になってみれば、阪神は外野のポジションも空いている。バッティングは自信があるし、外野の守備も中学生のときまでやっていた。これ、いきなり一軍で活躍できるなって」
生来、楽観的な桧山はいかに目立つかを考えるようになった。
この年のタイガースのドラフト一位は、大阪桐蔭高校の萩原誠だった。地元出身、甲子園でも注目された長距離打者に、熱狂的な関西のメディアが殺到していた。そこに桧山はドラヨンの気軽さから、割って入ろうとした。
〈萩原君、ちょっと待った。阪神・ドラフト4位指名の桧山進次郎内野手(東洋大)が二十九日、京都市右京区の実家で久保スカウトのあいさつを受けた。 「小さいころから掛布さんのファン」という桧山は、 「もし頂けるなら、ありがたく頂きます」と「31」番襲名に遠慮気味な1位指名萩原に代わって名乗りを上げた〉 ( 『デイリースポーツ』一九九一年一一月三○日)
桧山はこの報道には少々間違いがあるという。
「貰えるならば、嬉しいですって言ったはずです。そこは謙虚にしていました」
タイガースを熱愛する人たちの頭には、八八年に引退した掛布雅之の幻が残っていた。彼がつけていた背番号三一は欠番となっており、引き継いでくれる若き好打者を探していたのだ。
入団記者会見では「巨人がオロナミンCなら、阪神はリポビタンDのようにファイト一発の精神で頑張りたい」 とジャイアンツの選手が出演していたテレビコマーシャルを使って、笑いをとった。
背番号「三一」は萩原が、桧山は「二四」となった。
「ぼくは二桁の番号をつけたいと思っていたんです。そしたら二四が転がり込んできたからラッキー、なかなか良い番号がもらえたな、みたいな感じです」
セ・リーグの最下位を彷徨っているタイガースならばレギュラーを簡単に獲れるだろう、そう思っていた桧山はキャンプ入りと共に自分の考えが甘かったことを知る。(第3回につづく)
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